動物にとっての動物病院とリハビリテーションとは

科目:

陰山 敏昭

20年以上前に私がアメリカのペンシルバニア大学の動物病院に勤務していた時の1月元旦に、3歳になった息子がトウモロコシの種を自らの耳の穴に入れてしまいました。 自宅ではどうしても取り出せず、ペンシルバニアの小児専門病院の緊急外来に行ったときの出来事です。 息子は特殊な保定用ベッドに括り付けられ、頭部を固定され耳鏡で耳の穴を覗かれるものですから、緊張と恐怖心のあまり大泣きしましたが、トウモロコシの種は無事取り出すことが出来ました。処置が済み、ヒクヒク泣きながら会計を待っていると、なんと担当医師がアイスキャンディを持ってきて息子に「ご褒美」といって手渡してくれたのです。その瞬間に息子の涙が止まり、笑顔に戻ったのです。そして、数日後の再診の時には、前回の恐怖心は全くなく、笑顔で診察を受けていました。後から聞いたのですが、その病院はアメリカで最も歴史ある最先端の小児専門病院でした。

それから数年後に帰国し、獣医大学の動物病院や専門病院で整形外科と脳神経外科を担当し、診察や手術をしています。 では、「動物の視点から見た動物病院とは」どんなものでしょう。 他の動物の匂いの沢山する知らない場所に来たと思ったら、見知らぬ獣医師に触診と称して全身を触られ、時には神経検査と称して光を目に当てられたり……これはまさに子供が大泣きするのと同様に緊張と恐怖心が動物にもあるのは確かです。 ではどうするか? そうです。診察と処置が終わり病院から帰る時に「とびきり美味しい犬用クッキー」をご褒美に2つ与える場合があります。(注:アレルギー疾患や病状によっては不可能な場合もあります。) 一つは獣医師から、もう一つは飼い主から。時には緊張してその場ではクッキーを食べない子もいます。その場合には飼い主に待合室でご褒美をあげてもらいます。 その効果あって、再診で来院した動物には緊張が軽減されています。

また、動物のリハビリテーションでは多くの場合、ヒトと異なり自発的に頑張ってリハビリをしてくれることはありません。ですので、動物が楽しく遊んだりおやつを貰ったりすることで、動物のモチベーションを上げながらリハビリテーションを行い機能回復や痛みの軽減をします。

動物の医療は非常に高度化し、獣医大学病院や我々の専門病院では最先端の医療技術を提供するのは当たり前です。しかし、その大前提として、動物の視点に立った動物のための獣医療が必須だと思っています。

我々は少しでも動物が恐怖心なく安心できる動物病院そして獣医師・動物看護師・スタッフであるよう努力しています。

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