トイプードルの整形外科疾患

科目:

トイプードルの整形外科疾患

陰山 敏昭  (名古屋動物医療センター)

トイプードルの整形外科疾患の背景

ジャパンケネルクラブ(JKC)の犬籍登録頭数(Fig.1)をみると、登録頭数は2003年の575792頭から2018年の292906頭と減少の一途をたどっている。

Fig.1  犬籍登録頭数  ジャパンケネルクラブ(JKC)資料から作成

また、犬種別犬籍登録頭数(Fig.2)をみると、この10年間はダックス、チワワ、プードルの3犬種が他犬種に比較し圧倒的に登録数が多く、2008年からダックスとプードルの登録数が逆転している。

ほとんどの犬種が2003年から減少しているが、プードルだけは1999年から2012年まで増加し、特に2001年(14511頭)から2008年(86913頭)までで6倍と急激に増加している。2020年の時点では79466頭とプードルが最も登録数が多く、チワワ、ダックスフンド、ポメラニアンと続いている。

Fig.2  犬種別犬籍登録頭数  ジャパンケネルクラブ(JKC)資料から作成

この急激な増加が起った場合は、犬種特異性疾患が増加する。本邦では1995年前後の大型犬ブームでレトリーバーの関節形成不全や肘関節異形成が急増したのと同様に、現在はプードル特有の整形外科疾患が多く観られるようになっている。 したがって、トイプードルの飼い主はこれらの犬種特異性疾患について理解しておくことが大切である。

このページではトイプードルの整形外科疾患に焦点を当て、疫学とともに、代表的な疾病の診断と治療に関しする概要と注意点について述べる。

トイプードルの整形外科疾患の疫学

整形外科・脳神経外科の二次専門病院である名古屋動物医療センターに来院したトイプードル973症例について、疾病データベースから検討した。

疾患の割合は、関節疾患510例(52%)、骨折疾患319例(33%)、神経疾患144例(15%)について検討した。

トイプードルの関節疾患

膝蓋骨脱臼が55%と最も多く、Legg-Perthes病(LCPD)が21 %、肩関節7.1%、股関節6.9%、前十字靱帯3.7%、肘関節脱臼・靱帯損傷2.5%、関節リウマチ1.6%であり、その他に浅指屈筋腱亜脱臼、中足指関節痛、手根損傷、指関節損傷などが見られた(Fig.3)。

Fig.3  トイプードルの関節疾患 (名古屋動物医療センター)

トイプードルの関節疾患は膝蓋骨脱臼、Legg-Perthes病、肩関節疾患、股関節疾患で90%を占めていた。

遺伝性整形外科疾患と考えられる膝蓋骨脱臼とLegg-Perthes病は多くが1歳以下で発症し、肩関節や股関節の脱臼は多くは中~高齢で発症することが多い。ラブラド-ルやハスキー、バーニーズで多くみられるような膝関節の前十字靭帯断裂は中高齢での発症が多く、膝蓋骨脱臼を合併していることがある。 また、プードルの関節疾患では、クッシングや関節リウマチを基礎疾患として持っている場合がある為、注意する必要がある。

膝蓋骨脱臼

膝蓋骨脱臼の発症はトイプードルが最も多く、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャテリアの4犬種で50%を占めていた。

膝蓋骨内方脱臼(MPL)が83%と最も多かったが、膝蓋骨外方脱臼(LPL)が9%であり、内方にも外方にも脱臼(MLPL)する例が8%であった(Fig.4)

Fig.4  トイプードルの膝蓋骨脱臼のタイプ (名古屋動物医療センター)

2009年に我々が発表(第78回獣医麻酔外科学会、安川,陰山ら、2009年)した、犬の膝蓋骨脱臼の3D-CTによる骨形態に関する検討で、大腿骨と脛骨の骨形態の犬種別特徴として大腿骨の内反角、頸体角、前捻角において、トイプードルとポメラニアンおよびヨーキーとチワワに類似点が認められた。チワワ+ヨーキー群では健常肢においてもトイプードル+ポメラニアン群よりも内反角が大きく、生理的に膝蓋骨が脱臼しやすい大腿骨の形状をしているのに対し、トイプードル+ポメラニアン群の大腿骨は直線的で曲がりが少ない傾向がみられた。

また、グレード4の膝蓋骨内方脱臼ではいずれの犬種においても膝蓋骨脱臼を伴って成長することにより骨形態に変化を及ぼして大腿骨の内反角が増加する傾向が認められた。

これらのことから、トイプードルの膝蓋骨内方脱臼の手術では脛骨稜の外側転移手術では、過度に外側に転移し過ぎると、将来的に膝蓋骨外方脱臼となって跛行が悪化してしまうことが散見される。 したがって、外側転移する場合の手術方法と外方転移させる程度に関しては十分に注意が必要である。

また、内方にも外方にも脱臼(MLPL)する例がトイプードルでみられる。MLPLに対する手術では過度の外側縫縮と過度の内側リリースはしないように留意しないと、内方脱臼を外方脱臼にしてしまうことになる。

滑車溝形成手術では、できるだけ滑車軟骨の温存を行うべきであるが、体重が1kg~2kg台の極小トイプードルでは大腿骨遠位の骨形態を加味して手術方法を決定すべきである。2014年の第89回獣医麻酔外科学会(大阪)で我々が発表したが、犬の体重あたりの膝蓋骨軟骨面積は、体重10~20kgの犬と比較し、体重3~4kgの犬で1.5倍、体重1~2kgの犬では2.4倍になることが明らかとなった。したがって、1kg~2kg台の極小トイプードルでのTrochlear sulcoplastyは、膝蓋骨の軟骨損傷は軽度に抑えられる可能性が示唆された。今後は、手術後の膝関節炎の進行の程度に関して検討していく必要がある。

Legg-Perthes

膝蓋骨脱臼の次に多発する関節疾患はLegg-Perthes病(LCPD)で、過去に我々は、LCPDの早期診断における股関節屈曲位腹背像とCT画像の有用性(第66回獣医麻酔外科学会,米地,陰山ほか,2003年)ならびに CT像と病理組織像との関連性を詳細に検討した(第70回獣医麻酔外科学会,松山,陰山ほか,2005年)。従来の診断方法である股関節伸展痛とX線撮影での股関節伸展位腹背像に加え、現在では股関節屈曲位腹背像とCT検査を加えることで診断精度が向上し、早期の確定診断が可能となった。トイプードルはLCPDに罹患した症例が最も多く、ヨークシャテリア、M.ピンシャー、パグなどによく発症する。生後8か月をピークに約9割の症例が1歳までに発症して来院することが多い。また、膝蓋骨内方脱臼を合併している症例も高率にみられる。 CT所見としては、前期から中期では軟骨下骨の“壊死”を示す骨頭内嚢胞様透過陰影(骨端軟骨に近い領域に低吸収像)として明瞭に観察され、骨頚部デンシティーの増加や壊死部の圧壊が正確に診断可能である。後期では嚢胞様陰影は消失し、二次性の股関節の変形が主体である。 術後リハビリテーションは患肢の不使用と大腿部筋委縮が著明で痛みに対する感受性の高い症例、特にトイプードルでは有用である。リハビリテーションではプールでの水泳が最も有効である。 以上のことから、トイプードルのLCPDはX線撮影での股関節伸展位腹背像に加え、股関節屈曲位腹背像とCT検査による早期確定診断とともに術後リハビリテーションとしてプールでの水泳が最も有効であると考えられる。

Fig.5 トイプードルの関節疾患(膝蓋骨脱臼とLCPD以外)(名古屋動物医療センター)

肩関節内方脱臼

他の犬種に比較してトイプードルで非常に多く発症する。ほとんどの症例が、大きな外傷ではなく日常生活動作のなかで内方脱臼する。適切な脱臼整復と安静を行えば比較的再脱臼は少ないが、再発を繰り返す症例では保存的治療や肩関節安定化手術・肩関節固定手術が必要となる場合がある。

股関節脱臼

トイプードルは他犬種に比較し、腹側脱臼が多く認められ、背側脱臼が49%、腹側脱臼が37%、過度の「緩み」が14%であった。クッシングとの関連で脱臼している場合もあるため、注意が必要である。

トイプードルの骨折

橈尺骨骨折が67%と最も多く、次いで脛骨近位・脛骨稜骨折が9%、上腕骨遠位骨折が5%、大腿骨遠位骨折が3%であった(Fig.6, Fig.7)。骨折症例のうちの成長板骨折症例は20.1%と比較的多く認められたことから、成長板骨折や関節周囲骨折が多いのがトイプードルの特徴である。

また、骨折の原因として、多くの骨折症例では大きな外力がなく、1m以下の高さからフローリングやコンクリートなどの硬い床に落下して骨折などの、日常生活での低エネルギー損傷による骨折が多い。

Fig.6 トイプードルの骨折 (名古屋動物医療センター)

橈尺骨骨折

骨折時の年齢は2歳以下が骨折の約8割を占め、生後4カ月から10ヵ月齢に多発する傾向である。演者は主にプレート固定法を行っており、橈骨遠位成長板骨折や骨幹端骨折ではピンニングする場合がある。また特殊な場合には創外固定法を用いる。癒合不全症例に対する手術法は、プレート固定法、創外固定法、イリザロフ固定法、インプラント除去、外固定などを行う。

また、2011年に我々の施設で行った橈尺骨骨折300例の検討では、術後の骨癒合率は新鮮骨折症例で100%、紹介症例の骨癒合不全症例では94%であった。紹介症例の骨癒合不全で頻度の高い合併症は、感染、髄内ピンの折損、プレートの折損、スクリュー部(特に最近位のスクリュー)の骨折、不適切な解剖学的整復、大きすぎる創外固定器による固定ピンのルーズニング、外固定の不備による骨変形や軟部組織損傷などである。合併症を可能な限り減少させるためには、単一の手術手技に固執することなく、骨折の状況に適した手術法を選択する必要があり、厳格な無菌的手技を行い、プレート固定法、ピンニング、創外固定法などの様々な手術法や処置を適応する必要があると考えられる。

特にトイプードルの橈骨遠位骨折では外固定の期間が長くなればなるほど、遠位部の骨吸収が進むため、再手術を行なう際にはスクリューや固定ピンの緩みが起こりやすくなり、さらに不利な状況に陥ってしまう。したがって、多くの場合、他の部位の骨折のように時間が解決してくれることは少ないため、常に冷静に骨癒合の経過を判断し早期に対処して行くことが肝要である。

Fig.7 トイプードルの骨折(橈尺骨骨折以外) (名古屋動物医療センター)

関節周囲骨折

脛骨近位・脛骨稜骨折、上腕骨遠位骨折、大腿骨遠位骨折はすべて、外固定だけでは骨癒合不全を起こす可能性が高いため、手術が必要な骨折である。

関節周囲骨折の特徴は内固定の固定強度があまり強く出来ないが、骨癒合は早いため、早期の手術(3日以内)が必要である。これらの骨折では内固定手術後は外固定の併用はしない。特に大腿骨遠位骨折の場合には、術後の外固定を併用することで大腿四頭筋拘縮を合併するriskが高くなるからである。

脛骨近位・脛骨稜骨折や大腿骨遠位骨折

Multiple Pinningを行うことが多く、通常は直径1.0mmから1.4mmのK-wireを用いて内固定を行う。

上腕骨遠位骨折

外側顆骨折ではC-arm透視下での顆間スクリューとK-wireによる内固定を行っている。内側顆骨折やT字・Y字骨折の場合には髄内ピン、Plate、創外固定などを併用した手術になることが多い。

おわりに

数例の手術経験のみで全てを語る獣医師が現在でも散見されるが、小動物の整形外科疾患では犬種特異性疾患を把握し、犬種に適した診断と治療を行うべきである。特に整形外科手術では、犬種を考慮した手術を行うことで、さらに良好な結果が得られる。

また、教科書通りの手術では合併症が出ることが多く、トイプードルの整形外科手術でも「数は質なり」で、トイプードルの手術を数多く行う施設では合併症が少ない。

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