犬の関節リウマチ
科目:整形外科
犬の関節リウマチ Canine Rheumatoid Arthritis
整形外科 陰山 敏昭
特徴
関節の免疫介在性関節疾患であり、複数の関節の非感染性炎症を起こし関節液が貯留する疾患のこと。糜爛タイプと非糜爛タイプに分類され、糜爛タイプは関節軟骨の破壊が起こり、非糜爛タイプは全身性紅斑性狼瘡(SLE)という免疫疾患に合併して起こる。
本邦ではミニチュア・ダックスフンド、プードルなどの小型犬での発症が多く認められる。これは、特発性びらん性多発性関節炎(IEP)とも云われ、ヒトの関節リウマチに類似している。本疾患は早期診断と早期治療が必須である。
病因
免疫とは異物(非自己)を動物が認識し、攻撃するシステムのことであるが、関節リウマチとは犬が自分自身の関節を間違って攻撃してしまい、関節に強い炎症を起こす疾患である。詳細な原因は不明な点もあるが、宿主の免疫グロブリン分子が変化し、この分子構造の変化により免疫グロブリンを異種の蛋白と認めてしまい、免疫グロブリン分子が抗原性になる。その結果、免疫複合体が産生され、滑液に多形核細胞が集まる。そして、関節に障害(多くのコラゲナーゼは滑膜の線維芽細胞と滑液の多形核白血球で作られる)が起こると考えられている。
臨床症状
糜爛性の場合は小型犬・長小型犬特にミニチュア・ダックスフンド、マルチ-ズ、ポメラニアン、シ-ズ-、トイプードルに多く発生し、年齢は8ヵ月〜9歳(平均4歳)で罹患することが多い。初期の症状として飼い主は「最近になり寝ていることが多い」、「寝起き時にぎこちない歩行をする」、「急に年をとってしまったようだ」、「来客者が来ても以前のように元気よく飛び出してこない」というような症状を呈する。急性期には発熱が認められる場合が多く、歩様は明らかな跛行がおこる場合から、ぎこちない歩行まで様々である。
非糜爛性の場合は中型犬・大型犬に多く発生し、発症年齢は8ヵ月〜13歳(平均5.8歳)であり、全身性紅斑性狼瘡(SLE)の犬の約80%が多発性関節炎となる。
診断
手根関節、足根関節、膝関節、肘関節などが多発性にリウマチに侵されることが多い。リウマチに侵された関節は関節液が増量しているため、全身の関節の関節液が増量をしていないかを触診で診断する。また、侵された関節は重度に緩むために、手根関節の過伸展(手首が通常に曲がる方向と逆方向に緩み、ぺたぺたと歩く)(図1)、膝蓋骨脱臼、前十字靭帯断裂、肘関節脱臼などを併発していることが多い。また、関節運動時に、軟骨が削れたようなギシギシした感覚(軋音や捻髪音)、関節の疼痛が認められることが多い。これらの触診の精度は専門獣医師でないと不確実なことが多い。
腫れている関節の消毒を十分に行った後に、関節穿刺を行って関節液検査をすることが診断には必須である。
関節液の粘稠度は低下していることが多く、多くの場合は混濁(正常な場合は透明)している。関節液の細胞を染色し顕微鏡で観察すると多数の非変性好中球(10,000~100,000個/ml)が認められる(図2)。
血液検査では犬のCRP(C反応性蛋白質)が高値を示すことが多い、また、白血球増加症、好中球増加症を示すことがある。犬のリウマチ因子は関節リウマチに罹患した犬の約25%で陽性になるが、他の疾患に罹患した犬や、正常な犬でも見つかることがあり、参考程度の価値しかない。クームス試験や抗核抗体(ANA)価は正常である。紅斑性狼瘡(SLE)の犬では、紅斑性狼瘡(LE)細胞が典型的に認められ、抗核抗体は約90%に認められる。
レントゲン検査では関節周囲の軟部組織の腫脹、関節液の貯留、関節付近の骨の粗鬆症、関節軟骨の喪失、二次性変性性関節疾患、様々な程度の亜脱臼や関節の角度の変形が認められるが(図3、図4)、かなり進行してからでないとレントゲンのみでは診断できない。
治療
関節リウマチは慢性の進行性疾患で完全に治癒するのは困難な場合がある。治療の目的は痛みと機能障害を軽減し、進行を抑制することで、犬のQOL(生活の質)を可能な限り良好に保つことである。
治療の第一選択薬はステロイド剤(プレドニゾロン)を高容量で用いて免疫機能を抑制することからはじめ、徐々に減量して維持していく。早期に投薬を中止してしまうと再発するので注意が必要である。ステロイド剤でコントロール困難な場合には、その他の薬剤を併用し免疫抑制することが一般的である。それらに加え、適正体重に維持し、場合によっては水泳やアンダーウォーター・トレッドミルなどの理学療法を行う。
非糜爛タイプの場合には紅斑性狼瘡(SLE)に伴って起こることが多く、多発性関節炎の他に筋炎、糸球体腎炎、皮膚炎、貧血などが発現するため注意が必要である。
外科療法はあまり一般的ではないが、関節固定術や大腿骨頭切除を行う場合がある。
経過と予後
いったん関節が破壊されてしまうと正常には回復不可能であるため、本疾患は早期診断と早期治療が非常に重要である。進行性であるため長期の予後は様々である。
治癒は多くの場合に困難であり、寛解を維持することで犬の生活の質は良好に保持されることが多い。