椎間板ヘルニア

科目:

  • 特徴

    当院は2007年から日本初のリハビリテーション施設を有する犬猫の整形外科と脳神経外科の専門動物病院として診療・手術を開始し、椎間板ヘルニア治療で国内有数の治療実績と、良好な治療成績を得ています。最先端のCTと高磁場MRIでの診断・陽圧クリーンルーム手術室での手術・犬専用の室内温水プールやアンダーウォータートレッドミルでのリハビリテーション・24時間完全看護を駆使することで、1頭でも多くの犬が歩行可能となるために最善を尽くしています。

     

  • 原因

     

    ダックスフンド、フレンチブルドッグ、コッカースパニエル、プードル、ビーグル、コーギー、ペキ二―ズなどの犬種は若齢で椎間板髄核の変性が起りやすいために、椎間板ヘルニアになりやすい犬種です。椎間板ヘルニアは3〜7歳で最も多く発症しますが、Mダックスでは高齢でも発症します。

    椎間板の構造(図1、図2)のように椎間板の線維輪を破って変性した髄核が飛び出し、脊髄を圧迫してしまい、後肢麻痺が起こります(椎間板逸脱症、図2)。そして椎間板逸脱症の厄介なところは、数十分から数時間で突然発症します。

    上記の犬種の場合は、「ベッドやソファ−から落ちた」「階段で足を滑らせた」「フローリングの床で滑って転んだ」などの日常動作で比較的簡単に椎間板ヘルニアになってしまいます。“椎間板逸脱”は実際には様々な犬種や猫でもみられる神経の病気です。

    椎間板ヘルニアは、「逸脱」と「突出」の二種類ありますが、椎間板ヘルニアの多くが椎間板逸脱症で、もう1つが小型犬よりも大型犬に多いといわれる「椎間板突出症」(図3)です。 数時間から半日くらいで急に発症する椎間板ヘルニアは「椎間板逸脱症」のことが多く、「椎間板突出症」は、逸脱と違って中身の髄核は飛び出ないものの、線維輪が肥厚し徐々に神経を圧迫するため、数か月に渡り、ゆっくり症状が悪化することが多く、歩行時に足先が流れてしまうとか、腰が振らつく、腰を丸めているなどの症状から始まり、後肢の「ふらつき」が起こります。

    図1 正常な椎間板 

    図2 椎間板逸脱症

    図3 椎間板突出症

  • 症状

    椎間板ヘルニアの多くは突然発症します。したがって、特徴的な前ぶれを察知するのはむずかしいかもしれません。多くの場合、ゆっくりしか歩かない、背を丸めている、ジャンプしない、抱いたときに痛がる、腰が振らつく、歩行時に足先が滑るなどの症状から始まります。椎間板ヘルニアでもっとも特徴的な症状は、前肢や後肢の麻痺です。肢が麻痺してしまうと歩行困難になったり、まったく歩けなくなったりします。また、麻痺と同時に患部の「痛み」が発生します。特に頚椎の椎間板ヘルニアの場合は強い痛みを伴います。

    椎間板ヘルニアによって脊髄が圧迫されると痛みや前肢・後肢が麻痺します。

    頚椎に発生した椎間板ヘルニアでは、前・後肢の四本が麻痺する可能性があります。胸腰部の椎間板ヘルニアでは、後肢が麻痺します。

    重度の椎間板ヘルニアになると前肢や後肢の麻痺だけではなく、自力での排尿が困難なになる場合があり、その場合には。一日3〜5回、チュ−ブを膀胱に入れて排尿(カテーテル排尿)したり、飼い主が下腹部を押すことで膀胱を圧迫して排尿(圧迫排尿)することが必要となります。

    椎間板ヘルニアの合併症として最も重篤なものは、発症した重症のイヌの3〜6%にみられるという「進行性脊髄軟化症」です。これは脊髄の壊死が頭側に進んでいく病気で、予防・治療が困難で合併後7~10日で命の危険性が高い疾患です。

  • 診断

    犬猫の椎間板ヘルニアにおける神経症状の重症度は5段階に分類されます。

    以下のグレード(重症度)を診断することで、緊急性の判断や治療法の選択を行うため、最も重要な検査です。

    グレード1:元気なく背を丸めている、ジャンプしない、抱いたときに痛がるなどの症状で、「痛み」による症状。

    グレード2:酔っぱらいの様に腰がふらつく、歩行時に足先が滑る、起立時や歩行時に足先がひっくり返ってしまう「ナックリング」という状態。

    グレード3:後肢が麻痺して動かなくなり、後ろ足を引きずって前肢だけ歩行します。中程度から重度の麻痺です

    グレード4:「表在痛覚」が消失します。表在痛覚というのは、後肢の足先の皮膚をつねった時、犬が痛いと感じる皮膚表面の感覚のことです。自力排尿が困難で尿が垂れ流しとなる。かなり重度の麻痺で、緊急度は高いです

     グレード5:「深部痛覚」が消失します。皮膚などの表面の痛みだけではなく、後肢の指を鉗子などで強く鋏んでも全く痛みを感じない状態です。排便・排尿は出来ませんので垂れ流しとなります。緊急状態の麻痺です。一刻でも早い診断治療が必要です。

    椎間板ヘルニアの診断方法は、先ず初めに「神経学検査」などの身体検査を行い、その結果を基に「レントゲン検査」を行います。更に詳しい検査が必要な場合には全身麻酔して「CT検査」、「MRI検査」「脊髄造影検査」(図4、5、6)などを行います。手術を考慮する際には確実な診断を行った上で治療を開始します。医療機器詳細はこちら

    図4 造影CT像 

    図5 MRI像  

    図6 脊髄造影像

  • 治療

    治療には「内科治療」と「外科治療」があります。人と同様に犬猫でも神経疾患の治療では「リハビリテーション」が非常に重要です。

    治療法の選択は麻痺の程度、CTやMRIの画像診断結果、進行速度、犬種、合併症の有無、年齢、犬の性格等を考慮して決定します。

    内科治療

    グレード1~2の比較的軽度の麻痺の場合には、手術を行わずに、内科治療で回復する場合もあります。

    脊髄の腫れや炎症を抑えるために、抗炎症剤として副腎皮質ホルモンなどの投与を行うと同時に、逸脱した椎間板物質の自然吸収を待ちます。犬を安静に保ちながら麻痺の状況を注意深く観察する。過度に体を動かしてしまうと悪化する可能性がある。

    外科治療  リンクhttps://namc.co.jp/byoinannai/different/oroom

    グレード3以上の重度麻痺の場合には、早急に全身麻酔をかけたうえでCT検査やMRI検査を行い、検査結果を踏まえた上で手術を考慮します。特に後肢麻痺がグレード5になった場合には。48時間以内に手術を考慮する。

    手術は胸腰椎ヘルニアの場合には「片側椎弓切除手術」、頸椎ヘルニアの場合には「Ventral Slot手術」を行う。これらの手術は脊髄を圧迫している髄核や線維輪を取り除く手術です。

    また、同時に「造窓術」という線維輪に横穴を開けて、髄核を取り除く手術を併用する場合があります。

     

    図7 片側椎弓切除手術

    脊椎に横穴を開けて逸脱した髄核を取り除く

    リハビリテーション】  リンクhttps://namc.co.jp/byoinannai/different/iryokikai

    麻痺の程度や治療方法、犬種、体重などより、獣医師とリハビリ担当者、看護師が協議して、リハビリテーション・プログラムを作成し、可能な限り早期からリハビリを開始します。 排尿補助、ストレッチやマッサージなどを行います。 当院ではハイドロセラピーで多くの実績があり、犬用のライフジャケットを身に着けて、温水プールで水泳療法を行ったり、アンダーウォータートレッドミルで歩行訓練を行います。

     

    飼い主として出来ること」

    日常で気を着けることは、

    (1)肥満を予防する

    (2)フローリングの上に滑りにくいタイルカーペット等を敷く

    (3)階段の上り下りに注意する

    (4)ベッドやソファ−から滑り落ちないような工夫をする

    (5)飛んだり跳ねたりの激しい運動を控える

    などです。

    飼い主は生活を共にしている犬の動きを良く観察してください。

    残念ながら椎間板ヘルニアを完全に予防する方法はありません。

    椎間板ヘルニアの明らかな兆候は残念なことに、あまりありません。しかし、イヌは痛みのため、元気がなかったり、歩きたがらなかったりします。これは他の病気の可能性も考えられますが、やはり、いつもと様子が変だと思ったらすぐに動物病院へ行くのが最善の方法です。

    また、麻痺症状はグレード1から急激にグレード5に悪化する場合もあるため、椎間板ヘルニアと思われる症状が少しでも現れたら、すぐに動物病院で適切な診断を受け、麻痺の程度により専門治療が必要となります。

  • 経過

    手術前の神経の損傷程度により、回復状況は様々です。歩行障害、排泄障害を起こしている場合も、手術後早期に回復する場合もあれば、数ヵ月に及ぶリハビリが必要になる場合もある。
    Grade4~5の重度の脊髄損傷の場合には、手術とリハビリを積極的に行うことで、従来では回復困難な症例でも歩行可能になることがある。

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