前十字靭帯断裂
科目:整形外科
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特徴
当院は前十字靭帯断裂の診断と治療に関して、国内で有数の症例数と良好な治療実績を有しています。
当院では小型犬の前十字靭帯断裂では保存治療あるいは外側腓腹筋頭種子骨-脛骨結節縫合手術、中型から大型犬の前十字靭帯断裂ではTibial Plateau Leveling Osteotomy(TPLO)を推奨しており、95%以上の症例で良好な治療結果を得ています。【特徴】
膝関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨から構成され、膝関節には関節包、前十字靭帯、後十字靱帯、半月板、膝蓋靱帯や側副靭帯などの多くの組織によって安定している。犬の膝関節障害はしばしば後肢跛行の原因となり、膝蓋骨脱臼と共に前十字靭帯断裂は最も多い膝関節疾患である。前十字靭帯が断裂することで膝関節の安定性が損なわれ、後肢跛行と関節炎を引き起こす。 -
原因
前十字靭帯の断裂は、小型犬種より大型犬種で発症が多く、特にラブラドール、ハスキー、ヨークシャテリア、バーニーズ、トイプードル、柴犬などの肥満犬で発生する危険性が高い。大型犬の場合には、4歳以下で断裂を起こしたり、慢性の膝関節関節炎が通常5〜7才で認められることが多いが、体重が15kg以下の中型犬から小型犬では7才以降に靭帯が断裂する傾向にある。雄よりも雌での断裂がより高い発生率である。前十字靭帯の断裂の発生率は、不妊手術を行っている雌は去勢していない雄の2倍も発症しやすい。また、右と左の膝関節の両側で断裂する頻度は31%前後である。
犬の前十字靭帯断裂は加齡に伴う靭帯変性や脛骨近位の骨形態異常、肥満による過負荷、免疫介在性疾患などが原因で起こる。最近では前十字靭帯の部分断裂が膝関節跛行の犬のの25〜31%と高率で認められる。 -
症状
臨床症状は、断裂状態(部分断裂か完全断裂)、断裂の経過(急性か慢性)、半月損傷の合併の有無、変形性関節症(関節炎)の程度などより様々である。急性の前十字靱帯断裂の犬は、重度の跛行で患肢に負重せずに挙上する。損傷後2週から4週間すると跛行は徐々に和らぎ、犬は軽度〜中程度の跛行となる。大腿部の筋萎縮は劇的には起こらないが、時間とともに大腿部が細くなる。
前十字靱帯の部分断裂の場合は繰り返す跛行の原因となり、徐々に跛行状態が悪化し、膝関節の過伸展ストレスで痛みが認められる。慢性の前十字靱帯断裂を伴う犬は、膝関節の内側が肥厚している。また、前十字靭帯断裂によって、膝関節は二次的に関節炎が進行するため、正常な座る姿勢が出来なくなり、横座りや患肢を投げ出して座るようになる。 -
診断
診断は獣医師の触診により前方引き出し検査あるいは脛骨圧迫検査によって脛骨が大腿骨に比較し前方に変位する所見が認められることで確定するが、整形外科専門の獣医師でないと困難な場合もある。中年齢~高齢で後肢跛行の小型犬で膝蓋骨脱臼と診断されている犬の内に前十字靭帯断裂を合併している場合が散見されるため注意が必要。また、レントゲン検査、CT検査や関節鏡検査も関節炎や併発症などの重要な診断材料となる。
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治療
犬の前十字靱帯断裂の治療法の決定は、動物の年齢、身体の大きさ、体重、使用目的(例えば、活動的な狩猟犬に対し不活発な家庭犬)、整形外科的併発症あるいは全身状態などにより治療法を選択する。
小型犬では、外科的処置をせずに保存(すなわち、非外科的)療法で改善する場合があるが、改善の少ない場合には手術を行う。保存療法は基本的に短い綱で歩行させるように活動を制限し、体重を減少させ、鎮痛剤を用いる。半月板損傷、膝蓋骨内方脱臼を併発している場合には手術が必要となることが多い。
中型犬や大型犬の前十字靱帯断裂では、一般的に外科手術が必要となるが、過度に肥満している場合には、減量後に手術する必要がある。
手術は主に以下の2つの方法が一般的である
1)外側腓腹筋頭種子骨-脛骨結節縫合手術
2)脛骨プラト−水平化骨切り手術 Tibial Plateau Leveling Osteotomy(TPLO)
手術後は十分なリハビリテーションを行うことで、患肢機能がさらに改善する。特に可動域訓練と水泳によるリハビリテーションは有効である。経験豊富な手術術者での手術成績は非常によい -
経過
肥満しないように注意し、フローリングなどの滑る床の場合には滑らない床材に変更する。
特に片側の前十字靭帯断裂を起こした犬は1年半以内に20~40%で反対側の靱帯断裂が起こる可能性があるため、注意が必要である。