手術
手術が必要と思われる動物では「手術適応」の判断が最も重要です。手術には利点と欠点(Risk)があります。それは、個々の動物により様々で、病状、全身状態や併発疾患、性格、年齢、術者の技量、手術環境、手術後の看護能力などを加味して判断します。その旨をご説明し、飼い主様の意向を考慮したうえで最終判断します。何故なら、動物自身は判断が出来ないため、その家族と動物病院スタッフが協調して、決して後悔の無いように、その動物にとって最善の方法を選択する必要があります。
医学系の職業の方にとっては常識ですが、「手術」には非常に高度な技術と経験・知識・精神力が必要です。 「ピアノ弾けます」「野球できます」と聞いても、小学生の野球とプロ野球では全く質が違うように、手術も術者によって雲泥の差があります。ところが、手術はスポーツと異なり、相手と対戦したり、打率や勝率が公表される訳ではなく、ピアニストの様にコンクールがある訳ではありません。したがって手術ではその技術を客観的に評価するのは難しいのです。その結果として、現在の日本の獣医療では、自己流や間違った知識・技術による不適切な治療や手術が現実になされていることも否定できません。手術は動物の体に傷をつけるものです。手術による障害はその責任が術者にあることが明らかですから、それだけ外科医は手術に対して厳しい態度で臨む必要があります。
医療行為が身体に対する侵襲を伴う以上、一定程度の危険はつきものであり、すべてを予測することは困難であるからこそ医療は難しいと思いますし、それゆえ、どんなに注意を払っていても、一定の確率で「合併症」が生じることは不可避であるのも事実です。しかしながら、現在の日本の獣医療で注意すべきは、術者の手術適応外の選択・手技の未熟・手術ミスを「合併症」と称して、あたかも不可避(無過失)であったと「合併症を隠れ蓑(みの)」として漫然と手術している術者が非常に数多く散見されます。「手術を失敗した」と「合併症が生じた」と同義語と勘違いしている獣医師がたくさん存在しますので、もっと謙虚に手術について考えるべきです。
手術は高度な技術ですから、その習得に多くの経験と努力を必要とします。講習会での卓上の勉強や手術書を読むだけで良い手術ができるものではありません。手術の知識があっても、実際には寸分の狂いなく手術を進めていくためには繊細な手の動きが必要ですから、ピアニストのように日々鍛錬して上達をめざす必要があります。この厳しさは高いレベルの外科医になるには必要であり、その為に外科手術専門の獣医師が必要なのです。欧米の動物病院では人の医療と同様に、一次診療と二次診療に役割分担がなされており、難度の高い手術は専門医のみが行うシステムが確立されています。しかしながら、日本では2008年に小動物外科設立専門医(JCVS, Small Animal Surgery Charter Diplomates)が計65名認定され、小動物外科専門医制度は2009年4月から「小動物外科レジデントプログラム」が開始されたばかりで、日本の小動物獣医療は欧米に数十年の遅れを取っています。
当院の院長は小動物外科設立専門医であり、当院は日本小動物外科専門医レジデントプログラム教育のための関連施設に認定されています。また、手術は外科医一人ではできませんので、手術するスタッフや手術環境も重要です。適切な手術器具、機材、無菌的手術室が必要ですし、手術を熟知したスタッフと一丸となって取り組まなければ、最高の手術はできません。
さらに、手術中に不測の事態が起こってはいけませんので、すべて想定内に対処するためには様々な手術器具・機材・スタッフを待機させておく必要があります。
もし、あなたの愛する犬猫が「手術が必要です」と宣告された場合は、もう一度、良く考えてください。
手術
- 経験豊富な専門医のみが執刀
- 日本小動物外科設立専門医
- 小動物整形外科・神経外科の年間診療数・手術数は日本有数
- 手術感染は最小限:手術は陽圧クリーンルーム、ディスポーザブルのガウン・ドレープを使用
- 全身麻酔時には必ず麻酔担当スタッフが専属で麻酔を管理
手術室全体像
名古屋動物医療センターには陽圧換気の手術用クリーンルームが2室と一般手術室が1室あります。
人の手術室と同等に陽圧換気のクリーンルーム手術室で手術します。クリーンルームとは、空気中の塵やごみ、細菌を取り除く空調設備を備えた部屋のことで、天井からフィルターを通した清潔な空気が出て、手術室の床の四隅にある排気ダクトから排気されます。室内の凹凸を少なくするため、棚やモニターなどは全て壁中に埋め込まれて配置しています。
整形外科手術や脳神経手術の場合には、菌がいない部分を手術するため、手術中に空気中から落下してくる菌によって感染を引き起こす可能性があります。非常に清潔な環境で手術することで術中感染を極力抑えることが可能となります。また、手術室に入室する人員を必要最低限にし、手術を行う獣医師やスタッフは、ディスポーザブルの手術用の術衣を着用して感染予防を行っています。手術は最良の環境下において行います。